高知市中心商店街について
高知市中心部にある「帯屋町筋協同組合」にて行われた「高知市中心商店街視察研修」。
最初に、高知県商店街振興組合連合会の事務局長・宮﨑重人氏より、高知市商店街の概況についてご説明いただきました。
高知市の中心商店街は、以下の7つの振興組合と2つの協同組合から構成されています。
・はりまや橋商店街振興組合
・京町・新京橋商店街振興組合
・壱番街商店街振興組合
・帯屋町一丁目商店街振興組合
・帯屋町二丁目商店街振興組合
・おびさんロード商店街振興組合
・大橋通り商店街振興組合
・中の橋商店街協同組合
・帯屋町筋協同組合
商店街に賑わいを取り戻すために…
高知市中心商店街全体の通行量は、ここ20年で3分の1まで減少していますが、その中で大きく減っているポイントが4回あります。それは、いずれも大型店と密接に関係しています。
平成10年代前半に相次いだ高知市郊外への大型店舗の出店に加え、中心商店街の賑わいに一役買っていた大型店舗の撤退も、通行量の減少に大きな影響を及ぼしました。
その後も年々減少の一途をたどっていましたが、平成24年に底を打ち、そこから少しずつ増加傾向にあります。
平成24年は、高知市中心市街地の基本計画がスタートした年。商店街の環境整備や集客を狙ったイベントの企画・運営などが、通行量の増加という結果にあらわれています。
帯屋町チェントロの誕生
高知市中心市街地では、平成14年頃から住民の郊外への流出が増え、居住人口の減少も問題となっていました。
このドーナツ化現象に歯止めをかけるべく、平成27年、帯屋町筋商店街の旧ダイエー高知店跡に再開発ビル「帯屋町チェントロ」が建設されました。
居住区が一体となった14階建てのビルで、1階は地元の人気書店「金高堂」を核とした商業施設、2階は医療機関と飲食店、3階はオフィス、そして4階から14階が賃貸マンションとなっています。
その隣には、オシャレなカフェやベーカリーが入居する商業棟「ピッコロ」もオープン。
中心市街地に人と賑わいを取り戻す切り札として期待されています。
高知市中心商店街のインバウンド対策
近年、インバウンド需要がメディアなどでも頻繁に取り上げられ、注目されていますが、その流れは地方都市にも。「高知市中心部にも、ここ2年ほどでグッとインバウンドが増えました」と高知県商店街振興組合連合会 理事長の廣末幸彦さん。
高知市中心商店街におけるインバウンド対策についてお話いただきました。
外国人観光客の高知へのアクセスが増えている大きな要因は、高知新港へ寄港する外国客船の増加。
平成29年度は10月の時点で29隻の寄港を予定しており、50隻を超える見込み。
特に上海を出て日本の都市を2~3ヶ所まわるような、中国からの便が多いといいます。
高知市中心商店街にも中国人観光客が増えたことを受け、インバウンドへの対策として免税カウンターの要望が高まり、平成28年、高知市の支援も得ながら、商店街に免税カウンターが設置されました。
高知市中心商店街に、免税一括カウンター設置
「個店で免税カウンターを設置するのは大変なので、高知市観光振興事業補助金を受け、高知大丸に一括免税カウンターを置いてもらいました」と廣末さん。
手続委託型輸出物品販売制度の活用により、平成28年3月31日、高知大丸の5階に一括免税カウンターが設置されました。
参加店舗は高知市7商店街53店舗。
事業内容は、以下の通り。
①免税対応レジスター、パソコン、タブレット、個包装などの購入
②多言語対応マップ、加盟店シールの作成
③歓迎POP、カウンター誘導POP、のぼりなどの制作
平成28年度は1,343件(うち客船入港日以外632件)、平成29年度は9月現在で1,037件(うち客船入港日以外262件)の免税実績を上げています。
インバウンド対策、今後の課題
このように、外国人観光客の受け入れ態勢を整えていますが、売上自体はなかなか思い通りにはいっていないといいます。
その原因としては、寄港する港が高知だけではないこと。神戸港などにも寄るため、高知の商店街ではブランド品や電化製品、洋服などは売れないそう。
ならば、外国人観光客は高知に何を求めているか。それは高知城や桂浜などの観光。
観光を楽しみ、中心商店街をぶらぶらして、ひろめ市場で土佐グルメを堪能し、高知土産を購入する。そうした流れはできており、賑わいの創出にはなっているようです。
インバウンド対策を進める中で、見えてきた課題
・言語が壁となり、販売が消極的となりやすい。
・入港する中国人観光客の大半がツアーバスを利用するため、中心商店街での滞在時間が短い。
・4000人級の客船の場合、免税カウンターでの通訳が不足する。
・早朝に入港することが多く、商店街の店舗が開店していない。
今後は県・市・商店街による「外国客船市街地受入部会」を定期的に開催し、「商店街にインフォメーションをつくるなどさらなる対応に努めていきたい」と話してくださいました。
大橋通り商店街の仕掛けた「わくわくワークるんだ商店街」とは?
次に、高知市中心商店街の大橋通り商店街が実施している面白い取り組み「わくわくワークるんだ商店街」について、大橋通り商店街振興組合の副理事長・小笠原晃男さんにお話しいただきました。
●わくわくワークるんだ商店街とは?
商店街の活性化を目的とした、小学4~6年生を対象とした職業体験イベント。
大橋通り商店街で子どもたちはお仕事体験をし、模擬通貨「るんだ」をお給料としてもらい、それを使って商店街で買い物ができるというシステムです。
商店街の店舗をはじめ、新聞社や銀行、NHK、警察署、郵便局、航空会社、大学など、高知市内を中心とした多種多様な企業・団体が参加し、子どもたちの職業体験に協力。
●「るんだ商店街」の目的
・働く大変さ、楽しさを知ってもらう。
・お金の大切さを知ってもらう。
・自分で稼いだお金で買い物をする喜びを感じてもらう。
・大橋通り商店街を知ってもらう。
●「るんだ商店街」の流れ
子どもたちは1回30分の仕事を3回体験します。
①仕事(30分)→休憩(60分)→②仕事(30分)→休憩(30分)→③仕事(30分)→最後の買物
当初は1回目の休憩も30分でしたが、子どもたちの家族も来られるため、間に食事休憩をとり、商店街にお金を落としてもらう目的で60分になりました。
それぞれの仕事を終えると、子どもたちは給与明細をもらい、四国銀行が出店している「るんだ銀行 大橋支店」で模擬通貨をもらいます。お給料は1回につき600るんだ。1るんだ1円なので600円分のお買い物ができることになります。
各店舗で使われた「るんだ」は、イベント後に振興組合が同額で買い取ります。
「わくわくワークるんだ商店街」スタートの背景
「るんだ商店街」のはじまりは、平成18年度にさかのぼります。
年度の途中、「助成金で何かやらないか」という話が持ち上がりました。
「打ち上げ花火的な単発事業では面白くない。商店街らしく継続性のある事業をやろうという話になりました。大橋通りは昔から食品を扱う店が多いことから『土佐の台所』といわれ、食のまちとして栄えてきました。そこで、大橋通りらしく、職人の技を感じられる内容にしようという話が持ち上がりました」と小笠原さん。
大橋通り商店街は子どもへの認知度が低かったため、子どもを対象とし、将来お客さんになってもらえるよう、食のまちの職人の技を体験できる「キッザニア」のようなことをイメージ。
「より本物、リアルを追求しよう」と話し合いを重ね、「るんだ商店街」の骨格が出来上がっていきました。
●最初に起こった問題
大橋通り商店街には飲食店や八百屋など9つの組合店がありますが、当初の受け入れ予定人数が100名だったので、それだけでは難しい。そこで地元の新聞社や銀行、NHKに参画を依頼。外部から8企業の参画が得られ、合計17企業でのスタートとなりました。
ただ、年度の途中からはじまった企画で限られた補助金しかないため、できるだけ自己負担での協力を求めることに。
チラシのデザインや印刷、商店街に店を開くためのテントやテーブル、イスなど備品の調達も含め、運営はすべて振興組合のメンバーで進めました。
●応募方法などの対応
高知市内の小学4〜6年生を対象に、小学校などにチラシを配るなど周知し、募集。すると、募集人数100名に対し、600名を超える申し込みが寄せられました。当初はFAXで応募受付をしたところ、電話やFAXがパンクする事態に。
そこで翌年からはホームページでの募集、当選発表へとシフトしました。
「わくわくワークるんだ商店街」周囲の反響は?
平成19年3月に第1回が実施され、以降、毎年11月に行われてきた「るんだ商店街」も平成29年11月で第12回を数えます。
平成28年度までの11回で、応募総数は4,034名、参加総数は1,819名、参加企業も延べ305社にのぼります。
参加した子どもの家族からは「子どもがこんな一生懸命な姿は初めて見た」「今後もぜひ続けて欲しい」という声が、参加企業・団体からは「子どもたちと触れ合える機会が持ててよかった」「来年はもっと子どもが楽しめる企画を用意したい」などの前向きな声がたくさん聞かれました。
その一方で、各企業受け入れ人数に制限があるため「申し込んだ仕事と違う」といった苦情や問題点も。
小笠原さんらはそうした声を一つひとつ受け止め、その解消や新たな試みにも挑戦。
小学生をスーパーバイザーとして運営側に招いて意見をもらったり、当日の運営にも携わってもらったり。
また、当初の対象は高知市の小学生限定でしたが、平成28年度から募集エリアを南国市まで広げ、幅広く周知しました。
そして平成25年、「わくわくワークるんだ商店街」の活動が評価され、大橋通り商店街振興組合は「平成25年度子どもと家族・若者応援団表彰(子ども若者育成・子育て支援功労者表彰)」を受賞。
「妥協せず、やり続けてきたことが評価をいただけて、大きな達成感につながりました。商店街に対して何をすべきかという考えを振興組合のメンバー一人ひとりが持ち、取り組む姿勢が変わってきたように思います」と小笠原さん。
「わくわくワークるんだ商店街」というひとつの企画を通して活発な議論が生まれ、組合員の結束もより深まったという、商店街活性化の好例を教えていただきました。
土佐の商店街の先駆け「はりまや橋商店街」
高知市中心商店街の東の端にある「はりまや橋商店街」。
かつては呉服店などが軒を連ね、栄えた高知市内でも歴史ある商店街ですが、近年は人口の減少が著しく、街は高齢化。商店街の衰退が進んでいましたが、そこに待ったをかけたのが、はりまや橋商店街振興組合の理事長・事務局長を務める山本良喜さんです。
平成10年、高知県産の木材を使用した木造アーケードが完成し、全国的な注目を集めた「はりまや橋商店街」の活性化、来街者の獲得を図る独自の取り組みについて、山本さんにお話しいただきました。
●賑わい創出の鍵は「イベント」
はりまや橋商店街では、ほぼ毎週イベントを実施しています。
それは、外から人を呼ぶためだけでなく、高齢化が進む街中、はりまや橋商店街で暮らすお年寄りの居場所づくりという目的もあります。
毎週金曜の「はりまや市」、毎月第3木曜の「木々(もくもく)クラブ」、年に数回開催される「100円商店街」などの定期イベントに加え、「よさこい祭り」や「土佐のおきゃく」など高知市内全体のイベントに絡めた企画も行っています。
なぜ、イベントをするのか?
「はりまや橋商店街は商店主の高齢化が顕著。個店が単独でイベントなど何かを企画する体力がないんです」と山本さん。
だからこそ、「はりまや橋商店街」全体としての集客を考えました。
その一つの方法として目をつけたのがイベントだったのです。
もともとが予算のない中で始まったため、山本さんのイベントにおけるモットーは、セルフプロデュース。
チラシも飾り付けも、すべて手づくり、自分たちでやることを徹底しています。
「イベントをするからには、リスクを負ってでも本気でやる。この姿勢が大切。自分たちが身銭を切って、体を動かしてやらないと、結局継続できるものにはならないと思うんです。補助金をいただいて1回やって終わりにはしたくなかったので、自分たちでやることにこだわっています」と話されます。
さらにイベントをすることでメディアへの露出も増加。
はりまや橋商店街ではほぼ毎週イベントをしているので、地元の新聞やテレビ、ラジオなどに出る機会は自ずと増えていきます。
露出することでまずは商店街を知ってもらう。そして、街に来るきっかけとしてイベントを開催する。この循環で、はりまや橋商店街は賑わいを取り戻しています。
お客さんにも、お店にも喜んでもらえることを!
現在、はりまや橋商店街では、最初に挙げたように様々なイベントを実施しています。
特に「はりまや市」と「木々くらぶ」は初開催から14年を超える長寿イベントに。
●毎週金曜「はりまや市」
はりまや橋商店街のアーケードに、地域の野菜や海産物が並ぶ街路市。
普段の1.5倍ほどの来街者で賑わい、個店の売り上げアップも期待されています。
●毎月第3木曜「木々くらぶ」
商店街内の広場を会場として、ボランティアの演奏により童謡や唱歌を歌う集い。
毎回90人前後の参加者が街を訪れることで商店街の賑わいに繋がっています。
●100円商店街
年に数回、はりまや橋商店街と隣接する魚の棚商店街の同時開催による「100円商店街」。
その名の通り、商店街の各店が自慢の商品を100円で提供します!
マグロの解体ショーやガラガラ抽選会など、毎回お楽しみイベントも企画され、平日の6〜7倍もの人出で賑わいます。
●絵金生誕祭
絵金生誕の地であるはりまや町で、彼の偉業を讃えるため、毎年誕生日である10月1日前後の第1土曜を聖誕祭としてイベントを開催。
●はりまやストリートフェスティバル
高知商業高校がラオスに学校を建設するための取り組み。
商店街も協力し、毎年11月の土・日曜の2日間、商店街全体を開放してラオスの紹介や産品の販売を行い、売り上げを学校建設費用とします。現在は7校建設されています。
このほか、8月のよさこい祭り、12月のゴスペルライブ、土佐のおきゃくなど、年間200回を超えるイベントが催されています。
「お客さんに喜んでもらうことは大前提としてありますが、イベントを開催するからには、商店主さんに喜んでもらえるものにしなければならないと考えています。一つひとつのイベントでしっかり利益を生むことができれば、お店側もやる気が起こるでしょうし、次に繋がっていくはず」と山本さん。
お店もお客も喜ぶ、そんな商店街を目指して……。
山本さんらはりまや橋商店街振興組合の手づくりの商店街活性化はこれからも続いていきます。
これからの高知市中心商店街
最後に、質疑応答・意見交換の時間が設けられ、松山市商店街連盟の参加者からは様々な質問が挙がりました。
中でも話題に上がったのは再開発について。
高知市中心商店街では、平成17年の閉店後、長年その活用策が検討されてきたダイエー高知店の跡地に再開発ビルが誕生。すでに完成、オープンした「帯屋町チェントロ」に続き、その奥には高知県と高知市合築による図書館が平成30年夏の開館を目指し建設中です。
県立・市立図書館の合築は日本初の試みとなり、全国的な注目も高まっています。
松山市中心商店街も再開発が検討されている今、着々と再開発が進む高知市中央商店街の取り組みはとても参考になったのではないでしょうか。