変わる販売方法。商店街は生き残れるのか?
狸の縁で繋がる松山と札幌。
札幌狸小路商店街振興組合と松山銀天街・大街道商店街振興組合連合会は2001年に姉妹提携を結び、以降、物産交流や研修などで交流が続いています。
それゆえに「松山は第二の故郷として親しみを感じています」という島口さん。
狸が取り持ったご縁で、今回の人材育成事業研修会が実現しました。
まず、時代とともに商店街の置かれる状況が変化してきた中で、これからどう生き残っていくのか。
かつては近くの商店街で買い物をする日常が当たり前でしたが、郊外型大型複合店舗の乱立で商店街が衰退。さらに楽天などのネット通販も浸透していきました。
そして現在、スマートフォンの普及により通販環境は一変。Amazonなどの巨大通販の出現により、自宅でネットショッピングがスタンダードに。パソコンを使い始めた世代が50代を迎えたことで、昔は商店で買っていた層が通販で購入する時代になり、「若者に至っては買い物がゲーム感覚になっているのでは?」といいます。
さらに未来を考えた時、携帯端末の高速化(5G)などによりネットショッピングの需要はますます高まり、必要なものだけを購入する時代に。
「なんでも揃う総合店が苦戦しているのはそのせいです。これからは特化型の専門店が普及して行くと考えられます。中でも趣味の世界、オタクは最大のマーケットです」と島口さん。
そうした時代の流れの中で、本物の価値を知らない若者が増えている今、これからのマーケットを担う若者に向けて「商店街はどういうものを扱っていけばいいのか」を考える岐路に立っているといいます。
商店街の現状運営における課題とは
全国の商店街が抱える悩みとは?
島口さんは以下のポイントを提示します。
・人手が足りずイベントが出来ない
・事務局員が雇えず補助金手続きも出来ない
・役員の高齢化、後進が育たない
・街区設備の維持投資が出来ない
・商店街加入率の低下で運営がままならない
・大型店やチェーン店が加入してくれない
中でも、商店街加入率を増加するためにどうすればいいのか?
「やはりメリットがないと加入しようとは思いませんから、商店街に入ってもらうための環境づくりに努めるしかありません」
特に大型店やチェーン店は本部を通す必要があるなどハードルは高いですが、参画してもらうことで商店街にとって大きな力になることは明らか。
そこで、「商店街に協力してくださいと言うと、面倒で怪しいイメージを持たれる可能性もある。そこで『一緒に街を明るくしていきませんか?』と言い方を変えるだけでも印象は変わります。いきなり加入してくださいではなく、まずは一緒にイベントをするなどから協力をお願いする方法もあります。商店街のイベント会議などに参加してもらって徐々に信頼関係、協力体制を築いていく。いつでも扉を開けて待っていますよという姿勢が大切です」と島口さん。
実際に、札幌狸小路商店街振興組合は大型店やチェーン店もほぼ100%商店街に加盟しているそうですが、その裏には「店長会」制度という取り組みがありました。
商店街にチェーン店が増え、実営業者が変わってきたことを受けて組織された店長会。まずは商店街の親睦を深めるため、商店街の各店舗の店長に集まってもらい、ボーリングや飲み会などから始めたそう。「最初の2年間は親睦会のみ。仲間づくりが第一の目的でした」と振り返ります。
これが功を奏し、気がつくと朝の店先で、他店の従業員同士が「おはよう」と声を掛け合う関係性ができ、イベントの企画など商店街運営にも繋がっていったそうです。
今後の商店街を担う若者の育成
商店街活動をするにあたって、担い手不足は深刻な課題です。
「次の担い手である若者をどう育成していくか、それは今後の商店街運営において一番大事になってくるポイントです」と強調されます。
そこで、現状の課題と解決策を以下のように挙げていただきました。
●イベントをしたいが、人が居なくて出来ない
この課題については、「新しい兵隊を探しましょう」と島口さん。
商店街の役員に限らず、店長さんや店員さん、さらには地域の学生を巻き込むのも有効な方法だそう。
「松山の商店街では既に大学や高校とのコラボレーション企画をされていると存じますが、最近では学校側もどんどん社会に出ていき産学連携を求めているので、ウィンウィンなコラボができるはず」
また、定年後の方などを対象としたボランティア登録をしてサポーター制度を展開したり、手のかからないイベントをしたり、何もない時には商店街に“座れる”場所を作るだけでも集客に繋がると言います。
●会議をしても出てこない
●若者を取り込みたいが、意識が低い
「これについては、そもそも日中の会議となると、営業中の店を飛び出して参加することが難しいわけです。その上、会議に面白味がなかったり、重いテーマが多いので疲れたり。先輩が築いてきた基盤があるためになかなか輪に入っていけない。会議の日に誰も誘ってくれない。自分の意見を聞いてくれる機会がないとマイナスに捉えてしまう。実は誘ってもらったり、意見を聞いてくれることを待ち望んでいるのです」と島口さん。
今の若者は出来上がった仲間の中に突然置かれると疎外感を感じ、自分から輪に入れない。意見を求められても知識も経験もないため答えられず、そのことが低評価に繋がってしまう。
だから、若手をフォローする人を作っていかないと商店街運営は難しいということを実感されています。
●リーダーが育たない
気づけば執行部を見渡しても高齢者ばかりという現状に陥っている商店街は多いと思います。そこで後継者を育てるためにどうすればいいか。
「私は、次の世代と、さらにその次の世代の人間まで二世代を同時に育てるようにしています」と島口さん。
そんな島口流リーダーの育て方は、チャンスを与えること。
・会議では若者の意見を一人ずつ聞いてあげる。そして必ず一言発言してもらい、参加意識を高める。
・イベントは実行委員長制度として、失敗してもいいから若者に全権委任する。それが組織の活性化にも繋がる。
・懇親会は、店選びからメニュー、予算折衝、案内文章まで当番1人に任せる。
「企画、準備、実行、反省までを短期間で経験できる懇親会は、人の気持ちを理解するにはすごくいい機会。イベントと違い懇親会は責任がないので、ぜひ訓練施設として使っていただきたい」
・「責任は俺が取るから」という一言がどれだけ若者の力になるか……。ちゃんと褒めてあげる反省会が大切。
・評価は人を育てる。自信がつけば次のチャレンジができる。
現在の商店後継者に不足しているもの
次のテーマは事業継承です。
「バブルを知らない私たちは、商売で大きく儲かった経験がありませんし、家族経営になると店を空けられず、視察や旅行に行けないと広い視野を持つ機会もなかなか持てません。そんな中で世襲を進めていくためには、小さい頃から商売のお手伝いをさせることが大事だと思います」と話す島口さん。
人と接することはどんな仕事にも繋がるため、たとえ別の仕事を選んだとしても、商売経験は必ず役に立つのではないかと続けます。
また、「商売は売れてなんぼの世界。売れる楽しさを今の若い子に教えてあげてほしい」との思いを口にします。
具体的な継承のポイントとしては、商売を現代に合わせるためにチャレンジすること。
後継者は先代(父親)が今まで築き上げてきたものを守ることに固執してしまい、現代の流れに商売が合わなくなってきている状態に陥りがちだとか。
「決して固執する必要はありません。何を売ってもいいんです。だから今の時代に合うものを柔軟に考えてほしい」と島口さん。
そして、事業継承に際して、親子喧嘩は避けては通れないと言います。
「事業継承はすごく難しいこと。うちの事業継承は、徹底的に話し合いました。言い合うことこそ大事なことで、親父の言葉にはある程度意味があるんです。うるさいと言われても、そこは親子ですから気持ちをぶつけることが大事。時には平行線になる場合もありますが、その場合は後継者が必ず折れるべき。譲れないということは、そこに何か親父の意図があるはずですから。そうやって言い合っていると、最後にはだんだん言わなくなってきます。それは認め始めている証拠。周囲の人たちからは『喧嘩できるだけ幸せだ』とよく言われました。突然亡くなってしまう場合もありますからね。だから親父とは一緒に戦うべき。運命の分かれ道を相談できるのは親父だけですから、世襲に対しては、必ず戦ってやってほしいと思います」
そう自身の経験を踏まえて、熱く語っていただきました。
商店街は若者の訓練施設
今の若者は人付き合いが苦手な傾向にあります。
・お酒を飲まない人が多く、飲みニケーションが難しい時代ですが、そこを無理強いしてはいけない。
・兄弟構成や家庭によって自己主張に差が出てくるので、どう育ってきたのかを理解する。
・痛い経験(ケガ、失恋、別れ)が少ない。
・現代っ子はすごく素直なので育てがいがある。
・「褒めて伸ばす」は現代の最重要キーワード
ですから事業継承にあたっては、商店街を若者訓練施設として、行事や組織運営で人との関わり、準備・実行などの苦労を経験させることが大切。必ず本人の成長にも繋がります。
・まずは仲間内の会から、人前で挨拶をさせよう。
・言葉の使い方を学び、商店街のメンバーに覚えてもらうために会の司会をさせよう。
・人を笑わせる楽しいことをさせよう。
・イベントの実行委員長をさせよう。
・懇親会は最良の訓練行事。
・自信をつけさせることが一番の早道。
「後継者の未来のために、外で経験を積ませましょう!」
番外編〜商店主の相続対策、していますか?
経営者として、事業継承とともに重要なことは相続対策という島口さん。
「相続って亡くなった後では遅いんです。だから生前贈与を使い、コツコツと移行していくことが大切。うちはすでに相続が終わっています」と話されます。
相続対象者全員に「どう相続するか」を小さい時から説明しておくこと、突然死に備えて、暗証番号などを記した「もしもの時の指示書」を金庫の中に入れておくことなど、何かあった際に経営が困らないよう事前準備は最重要使命だといいます。
「私は青年部も含め現場をずっとやってきた人間として、今の商店街の苦労は十分理解をしているつもりです。なかなか一歩が踏み出せなかったり、大きなことをしたりというのは難しいですが、小さなことからでもできることはたくさんあります。そんな第一歩から商店街の雰囲気を変えていくことは可能だと思いますから、ぜひ本日お話ししたアイデアをご活用をいただきたいと思います」と締めくくっていただきました。
講師プロフィール
島口 義弘氏
昭和38年(1963年)生まれ。
30歳の時、3代目経営者として家業である「たぬきや」の社長に就任。
「たぬきや」は大正5年に薬店として創業。昭和35年にハンドバッグ店への業態変換を経て、昭和54年よりお土産店として営業している。
札幌狸小路商店街振興組合 理事長
札幌市商店街振興組合連合会 理事長
北海道商店街振興組合連合会 副理事長
札幌商工会議所 観光部会 常任委員
札幌大通まちづくり株式会社 代表取締役社長
さっぽろわくわく応援団(北海道日本ハムファイターズ)団長