うまくいく理由は?出来る方法を考える
●「うまくいかない理由はなんですか」から「どうすればうまくいきますか?」へ
「繁盛しているお店と繁盛していないお店の違いは、思考の違いにあります」と上久保さん。
かつてコンサルタントとして運営に携わっていたフィットネスクラブ「Curves」では、ナレッジマネジメントを徹底。日本国内にフランチャイズ展開する全店舗の成功事例・失敗事例を共有し、絶えず経営マニュアルをブラッシュアップしていたといいます。
「同じサービスをしているのに、業績の違いが出てくるのはなぜか。全店舗から情報収集、分析するなかで分かったことは、業績が悪い店舗からは、立地条件が悪いなどうまくいかない理由がきます。一方、業績が良い店からは、どうすればうまくいくかという提案が届くんです」
業績の悪い店は、どんなアドバイスをしても、まず否定から入る思考に陥ってしまっているそう。逆に、業績の良い店は、うまくいく方法を考える思考ができているといいます。
●異業種、異世代、異なる地域から学ぶ
「一人で考えてもいいアイデアが浮かばないときは、他人の脳を借りるのも手」という上久保さん。彼女の言う「他人の脳」とは、異業種、異世代、異地域の人のこと。
同業種、同世代、同地域の人は、悩みも一緒のことが多いため、全く畑違いの分野に飛び込んでみると、新たな発見やヒントが得られることもあるそう。
●商品かターゲットか売り方を変える
商売は、創業期、成長期、成熟期、衰退期というS字カーブを描くと言われています。
「ですから、同じ商品を同じお客様に同じ売り方をしていると、いつか必ず衰退期がやってきます。そこで、商品、ターゲット、売り方のどれか一つ変えるだけで新しいビジネスチャンスが生まれるかもしれません」と話します。
安売りではなく、価値で選んでもらう
「人は、価値が高いものをいいものだと思うため、安売りをするということは、価値を下げてしまうこと。なので安易な安売りはやめましょう」と上久保さん。そこで、いくつかの実例を踏まえ、具体的な案を教えてくださいました。
●商圏を絞る
駅から徒歩15分の飲食店。
味には自信があるので頑張っていたが、場所が分かりにくいいため、まずは知ってもらうため広告を打つことに。駅前で割引広告を配ると最初はお客さんが来たが、割引期限が切れるとパタリと来なくなってしまうという繰り返しで、広告を出し続けたが、割引目当ての客ばかりになってしまった。
そこで上久保さんが提案したのは、店から徒歩10分圏内で働くお客さんを対象とした無料試食会。案内するとすぐに予約でいっぱいになり、翌日、参加者が客として再び来てくれたそう。「なぜ来てくれたか?それは近いからです。周りに飲食店も少なく、仕事終わりに寄れちゃう距離ですから。常連さんも増えたそうですよ」
これまでは徒歩15分かかる駅前で広告を配り、割引合戦に巻き込まれていました。しかも広告費は1回20万円。
そこで、徒歩10分圏内をターゲットにしたことで、1回の試食会につき2万8000円ほどの経費で常連客を獲得できたのです。
「みなさん商圏を広げがちな傾向があります。意外と灯台下暗しということもありますから、商圏を絞るのも一つの方法です」とのアドバイスをいただきました。
●単価の高いお客さんをターゲットにする
これまで、安いビールを求めるお客さんに応えるため、低価格競争に陥っていた酒屋さんから、「お客さんからもっと安くしろと言われるが、大手には勝てない。どうすればいいか」と相談を受けた上久保さん。どんなお客さんに商売をしたいかをたずねると「単価の高いお客さん、たとえばワインをたしなむ人がいい」とのこと。
そこで、ビールの安売りをやめ、ワインの品揃えを増やし、ワインの知識をスタッフに共有。ワインに合うつまみの提案や試飲も始めた。すると、美味しいワインを求める客が増えたという。
「安さを売りにすれば、安さを求めるお客さんしか来ません。安さでは大手に敵わない。ですから、価値で選んでもらうことが大切」と話します。
価値を伝える、その方法とは
価値で選んでもらうためには、どうすればいいのか。
そのPR方法を、実例を踏まえて教えていただきました。
●ストーリーを伝える
例えば、Aは198円、Bは300円のリンゴ。
金額だけを見れば、Aを買う人がほとんどかもしれません。しかし、ここにストーリーが加われば、どうでしょうか。
Bは、不可能と言われた無農薬リンゴの栽培に成功し、「奇跡のリンゴ」として大きな話題を集めた木村秋則さんのリンゴだったら…。
人はストーリーを聞くと、商品ではなく「この人」から買おうという気持ちになるものだそう。
「なぜこの商売をしているのか、その想い、ストーリーを伝えることがお客さんの購買意欲に繋がっていきます」と上久保さん。
●こだわりを伝える
どちらもほぼ同じ金額のおせち料理。
Aはデパートや通販のおせち21,600円
Bは西原屋という老舗和食店のおせち21,000円
「おせち料理の広告は、だいたいが写真と値段のみにとどまっており、詳細やこだわりが書かれていないことが多いため、選ぶ基準が写真(見た目)になってしまう。けれど、AとBでは全く違います」
Aは全国を対象とした通販で一斉に12月31日に発送するため、事前に工場で作られ、冷凍されているのに対し、Bは12月30日に職人総出で作り、冷蔵状態でお客様のもとへ届けられます。
このこだわりがきちんと伝わっているかが肝心だそう。
「わざわざ言うことでもないということが、案外お客様には伝わっていないもの。まずはこだわりを伝えるところからお勧めしています」
●機能価値と感情価値
ものには機能価値と感情価値があり、人がものを買う決め手は感情価値だといいます。
例えば、バッグの機能価値は「荷物を運ぶこと」。そこが満たされればスーパーの袋でも問題ないのですが、人々が高価なブランド物のバッグやオシャレなバッグを求めるのは、感情価値が働くため。
ですから、商品のPRをする場合は、感情価値に訴えることが効果的なのだそう。
●業界知識を発信する
お店のチラシやブログ、メルマガなどをつくる際に、商品説明ではなく業界知識を伝えることもお一つの方法だそう。
「商品のことを営業的にアピールするばかりではお客様は引いてしまいます。そうではなく、自分の持っている知識を発信することで、地域の人は『何かあったらこの人に聞こう』と思ってくださいます。それがいずれは『この人から買おう』に変わるはず」
そのツールはチラシや小冊子、通信・新聞、ブログ、メルマガ、お手紙、講座を開くなど多彩にあるので、自分の得意な方法で試してみてはいかがでしょうか。
顧客満足を追求する
次に、「顧客満足の追求」という視点から、上久保さんの実家が営む「電化堂」を例に挙げ、お話しいただきました。
電化堂は、十和田湖町でこの10年、売り上げ1位を維持する町の電気屋さん。大手量販店も撤退するほど、お客様の心をつかんでいます。その秘密とは?
●既存客を訪問する
大型量販店が新規客をターゲットに安売りのチラシを出すのに対し、電化堂では、既存のお客様へ向けたチラシを手渡ししています。
「大型量販店は商品を買ってもらうためのチラシなので、購入がゴール。しかし、電化堂では購入をスタートと考えます。買っていただいてからお客様とのお付き合いが始まるので、既存のお客様を一軒一軒訪問し、チラシを手渡ししています」
実際にお客様の家を訪問することで家族の変化が分かり、家電製品の購入のタイミングを逃さないというメリットに加え、家の間取りなど詳細を把握することにより、お客様にピッタリの商品を提案することができます。
「ほとんどのお客様は、こちらが商品をご提案すると『じゃあそれで』となるので、ほとんどがカタログ販売なんです。だから電化堂には展示品がほとんどなく、在庫を抱えるリスクがない。その分お客様に還元できるんです」と話します。
●3回の法則
例えばテレビを納品すると、その日から3日連続でお客様を訪問するそう。2日目は、「テレビの調子はどうですか?」とたずねると詳しい使い方などを聞かれるので、対応。そして3日目には、他の用事を頼まれることもあるそう。
「実は3日連続というのは、脳にとてもいいんです。人は、見たものや聞いたものをまず前頭葉に短期記憶として入れますが、そのうち忘れてしまう。しかし、1ヶ月に3回使った記憶は脳が今後も使うと判断して長期記憶に入れるので、リピートすることはとても大事なんです」と、脳科学の視点からもお話しいただきました。
●電化製品以外のものを売る
とはいえ、電化製品はそうそう買い替えるものではないため、次々に売れるわけではありません。
そこで、電化堂では既存のお客様を定期的に訪問し、お客様の声を聞くことを大切にしています。
そのなかで「家の段差がしんどくなって」と言われたらリフォームを、「耳が遠くなって困っている」と相談されたら補聴器を取り扱うなど、お客様のお困りごとを解消するために、取扱商品を増やし、商売を拡大してきました。
「家電製品を中心にお客様を増やす方法は全国展開の大型量販店向けです。地域密着店の場合は、お客様を軸に、お客様のニーズに応えて商品を増やし、単価を上げる方法が有効」と話します。
その時に注意しなければならないのは、商品を先に増やし、売り込みに入ってしまうこと。あくまでも「お客様のお困りごとを解決する」というスタンスが大切なのだと教えていただきました。
●上位2割のお客様をえこひいきする
お客さんのニーズに応えるにあたり、誰でもではなく、どのお客様の要望を聞くかが大事になってきます。
売り上げに貢献してくれているお客様上位2割が全体の8割の売り上げをつくっているという「パレートの法則」がありますが、往々にして、売り上げに貢献していない8割の要望に振り回されがちだとか。
上位2割のお客様を大事にすることで、その方々が質のいいお客様をさらに呼んでくれるという、いい循環に繋がっていくそう。
●既存客へのフォローを優先する
よく駅前や繁華街でクーポン券を配る姿を目にしますが、そうした割引券を配るということは、「うちの店はお客さんいないので、来てくれませんか」と言っているようなもの。
そのクーポン券に使うお金を、既存のお客さんに使うべきだと上久保さんは話します。
そして、その際のサービスはプラスのサービスがベストだそう。
マイナスのサービス:10%引きなど割引すること
プラスのサービス:プレゼントをすること
新規にかける経費があるなら、既存のお客様にプラスのサービスをすることで、リピート増の効果が期待できるといいます。
●顧客の「お悩み」を解決してあげる
自分の売り上げのためではなく、使命感を持つとやりがいに繋がると上久保さん。
「お悩みさえ解決すれば、お客様は来てくれます。売り上げのためではなく使命感を持ち、顧客満足を追求していくことが大事」と、心にしみるお言葉。
お客さんを共有する
●仲間とコラボレーションする
最初に異業種、異世代、異地域から学ぶことの大切さを教えていただきましたが、お客さんを共有するという視点から、異業種の仲間とのコラボレーションも有効な方法だといいます。
例えば、とある沖縄料理店では客寄せのためにビールを100円で売っていましたが、売れば売るほど赤字に。
相談を受けた上久保さんは「沖縄」というキーワードに着目し、沖縄好きな人が集まる店へとシフトチェンジ。沖縄出身の芸人やアーティストのライブなどのイベントを企画しました。
すると、イベントに出演する芸人やアーティストが自身のSNSで情報を発信してくれたことで、集客アップにつながったそう。
●お客さんが集まっているところへ行く
店を飛び出し、自分の求めるターゲットが集まる場所でPRすることも有効な手段です。
1.ターゲットを決める。
2.そのターゲットが集まっている場所を探す
3.その場所の責任者が喜ぶことを企画・提案する
住宅展示場とおせち販売店がコラボした例があります。
おせち販売店はターゲットである家族連れが集まる場所を探し、住宅展示場でとん汁を無料サービスする企画を提案。その際、とん汁を召し上がったお客さんにアンケートを取ることにより、住宅展示場側にもメリットがあるように配慮したといいます。
ウィンウィンの関係性を築くことも、コラボレーションの大切なポイントといえます。
●既存客から紹介をもらう
「みなさん、お客さんを紹介してくれた方にプレゼントをされることがあると思いますが、実は、そのキャンペーンをやるほどお客様は減る可能性があります」と上久保さん。
それはなぜか?
紹介する人はプレゼントが欲しくてするのではなく、自分が使ってみてよかったから、紹介しようという気持ちになるのだそう。
「ですから、紹介してくださったお客様には、プレゼントではなく感謝を伝えることが一番。そして、感謝し続けることが大事です」と続けます。
一回紹介いただいたあとも、ずっと感謝の気持ちを伝える。「あの時、紹介してくださった方、まだうちで買ってくれてます」とお礼の気持ちを伝え続けていると、また紹介しようという気持ちになるのだそう。
そして「既存のお客様にこそ、感謝し続けることを大切にしていただきたいと思います」との言葉で締めくくっていただきました。
女性ならではの細やかな視点でアドバイスいただいた、地域密着型の集客・営業術はとても興味深く、これからの商売の参考になったのではないでしょうか。
講師プロフィール
上久保瑠美子氏
(株)ii 代表取締役
1978年、青森県十和田湖町生まれ。
広告代理店の営業を経て、2005年(株)ベンチャー・リンクに入社。
コンサルタントとして女性専用30分フィットネス「Curves(カーブス)」の創業に携わる。フランチャイズビジネスの事業展開、ノウハウ開発、ナレッジマネジメント(知的財産の共有と蓄積)、700店舗以上の事例の分析・研究などを行う。
また、脳科学、心理学、NLP、コーチングを学び、独自のセールスコミュニケーションを培う。2009年、(株)ii設立。豊富な飲食店での経験と、得意の営業力を活かし、主にサービス業の集客サポート、売れる営業マン・販売員の育成をテーマに全国各地で講演を行っている。