洗練された大人の街・府内五番街
視察研修二日目の朝も、引き続き晴れ模様。
一行は宿泊先の宮崎県日南市から、一路大分へ向けて出発しました。
視察研修地は、石畳のストリートにモードなセレクトショップやサロン、ダイニングバルなどが軒を連ねる、大分市府内五番街。
奇しくもこの日は、一年に一度の大イベント「府内5番街 街中ジャズ2019」(通称:ジャズフェス)が開催されており、青空の下、ジャズライブを楽しむ人々で賑わっていました。
大分市府内五番街商店街振興組合の安達了剛理事長に、大分市府内五番街の現状やイベントなどの取り組み、今後の展望などについてお話しいただきました。
大分市府内五番街には、ミニシアター系の映画館がかつては複数あり、賑わっていたそうですが、郊外型のショッピングセンターにシネコンと呼ばれる複合映画館が進出したり、隣県の福岡で都市開発が進んだりしたことで街は疲弊の一途をたどることに……。JR大分駅の再開発が始まったのは、ちょうどそんな時でした。
「私たちは期待半分、懸念半分というところでした。というのも、府内五番街は生活必需品を売っているわけではなく、どちらかというと嗜好品。高単価のブティックなどが多いので住み分けができるのではないかという期待と、駅から近いので影響を受けるのではないかという懸念。正直、先行きが見えない不安はありました」と話します。
大分駅との共存が生き残る条件
しかし、実際に2015年にJR大分駅ビル「JRおおいたシティ」が開業したのちも、府内五番街へは映画館を中心に人が集まり、通行量は減少傾向にあるものの、そこまで深刻なものではないそう。
「松山市さんもそうだと思うのですが、JRの駅はもともと市内中心部から少し離れたところにあることが多かったのですが、大分駅に関しては商店街に近いことが功を奏して、共存できているのかなと。今になってみて思いますね」と安達さん。
JR大分駅の開発により商圏は駅の近くへと移り、駅から地元百貨店「トキハ」のある中央町商店街をつなぐエリアへの一極集中が進み、商圏自体も徐々に狭まっていることを安達さんは実感されています。
そのような状況下、日用品を扱う店が多い商店街が衰退するなかで、府内五番街が生き残っている理由。それは映画など娯楽を扱っていることが一つであると言えそうです。また、前述の中央町は空き店舗がなく、空いても賃料が上がっていることから府内五番街へ出店が流れているという傾向があると言います。
ファッションとカルチャーの街・府内五番街
府内五番街は、約90の団体が加盟している、ファッションとカルチャーの街。
約25年前、全国的に知られるセレクトショップ「ユナイテッド アローズ」の出店を先駆けとして、ファッションの街のイメージが浸透していきました。
これまで、こちらのユナイテッドアローズでは中価格から高価格まで展開していたのですが、大分駅にファッションを扱う『アミュプラザおおいた』ができたことで高価格ラインのみにシフトチェンジ。中単価を中心に扱う駅前との差別化を図りました。
また、ミニシアター系映画館として府内五番街で最も有名な「シネマ5」は、30〜40年続く老舗。このほか、ライブハウスやペットショップ、クラフトビールのブルワリー、飲食店などの娯楽&嗜好品にまつわる施設が中心です。
特筆すべきは、美容室が東西400mの間に15店舗もあること。大分市は、かつて人口対比で日本一美容室が多いという時代もあり、その名残のようです。
来街者の主な目的や年齢層とは?
「セレクトショップが多いので、来街者は若い人が多いイメージをお持ちいただいていますが、30〜60代の目的型購買者が中心です。基本的には予約制や顧客様が中心のお店が多いので、通行量の増減にあまり左右されず、テナントさんも10年以上続いている方が多いですね。そして、単価が高いお店が多いのも特徴です」と安達さん。
通り自体は減っているように見受けられても、売り上げはそれほど下がっていない。それにはこうした背景があったのです。
「しかし、目下の課題は新しいお客様の獲得。これが非常に難しい。目的型のお客様は安定している反面、10〜20代の知名度は非常に低いんです」と頭を悩ませています。
新体制に生まれ変わり、若いメンバー中心に
数年前まで、府内五番街商店街振興組合の理事は60〜70代が中心でしたが、安達さんが理事に入る少し前から体制が大きく変わり、若返りが図られました。
「とはいえ、私たち40代が一番若手なので劇的に若返ったわけではないのですが(笑)。現在理事は11名ですが、そのうち地権者が6名、店子が5名です。私も店子で、理事に入ってから1年で理事長を任せられました。店子としてこの街で25年働いていたので地域のことはある程度知っていますが、商店街の運営については手探り状態。ですが、だからこそやりやすいこともありますね。うちは他の商店街に比べて、店子さんが多いのかなと思います」と安達さん。
地権者6名のうち3名はもともと店子。ですから、商売をするためにこの地域に入ってきた人が理事11名中8名ということになります。「商店街を支えていこうというメンバーが多く、風通しが良い部分はありますね」と話します。
イベントを通して自治体との協力関係を構築
安達さんら40代メンバーが中心となってから対外的な動きが活発になりました。フットワークを軽く、自分たちでイベントの企画・運営を積極的に行っています。
「良し悪しはあると思いますが、イベントの数は随分増えました。イベントが増えたことで市役所との現場レベルでの関係性が良くなり、情報交換も活発になりました。協力体制は取れているのかなと思います。私たちがどんどん事をおこしているので、市役所の方も感化されて協力的になってくれたのかもしれません」。
府内五番街の通り400メートルは、毎日午後は歩行者天国。
さらに通りの一部はいつでもカフェテーブルなどを設置できるよう一年を通して使用許可を取るなどの態勢も整えています。商店街や近隣スペース、広域エリアでの連携を図り、さまざまなイベントを企画していますが、その一つがこの日のジャズフェス。他にも、駅近の百貨店「トキハ」と連携したイベントも多数開催してきました。
また、トキハ、アミュプラザ大分、ガレリア竹町、セントポルタ中央町、サンサン通り、ポルトソール、そして府内五番街という7団体で組織する中心市街地広域エリアで広報イベントを行う団体「おおいた都心まちづくり委員会」での合同イベントにも参加しています。
次の世代に知ってもらうために、学生とタッグ
「松山市さんが羨ましいのは、学校が近くにあることです。学校があると、若い働き手、アルバイトさんが確保できる、それに何より街を賑やかにしてくれる若者がいるというのは、相当な恩恵だと思います」と安達さん。
とりわけ府内五番街は10代20代の認知度が低いこともあり、安達さんが理事長に就任してからは積極的に地域の学校との連携を図っています。
その一つは、大分県立芸術文化短期大学との連携により開催している「エコフェスタ」。商店街を開催場所として、学生が主体となってエコをテーマにしたイベントを企画・運営しています。
また、学生たちが部活動として取り組んだ一つの成果も生まれました。
大分県立大分商業高等学校の商業調査部と連携した「府内GO!バイキング」というイベントです。これは、商店街の飲食店に100円メニューを作ってもらい、金券を使い、参加店舗をバイキング感覚でまわることができるというもの。学生が主体となってメニュー交渉を行い、金券も販売する。部活動の一環として行われました。
「学生たちは以前からジャズフェスなどのボランティアを通して商店街の人々との関係性を築いていたので、メニューの交渉や提案などもより密に行えたようです」と手応えをにじませます。
商店街をうまく活用して、実りを得て欲しい
安達さんは、商店街にそれほど興味を持たない学生たちが、商店街で活動することのメリットは何か?商店街側だけではなく、学生たちにもただの経験ではなく、何か得るものがなければならないと考えています。
件の商業調査部の学生が部活動として発表し、一つの収穫を得た府内GO!バイキング」。その経験をさらに発展させた女性がいます。
大分商業高校から80年ぶりに早稲田大学へ進学し、商業調査部での経験を生かして引き続き商店街の研究に取り組んでいる大学生です。彼女は大学2年の春、クラウドファンディングで60万円を集め、その予算で府内5番街に開き店舗を企画しました。
空き店舗を開き店舗にするそのプロジェクトに賛同した人々が集まり、物販をしたり、ワークショップをしたり、ライブをしたりと連日賑わい、新たな人の流れを生み出すことに成功。このプロジェクトの成果を、彼女は学校に戻り発表しました。
「商店街をフィールドとして自分のためにうまく使ってくれる子が増えると、商店街は成長していくのかなと思うんです。今は大分大学経済学部の社会イノベーション学科と一緒に、商店街の課題解決に向けて取り組んでいます。まだ開設されて3年目の学科なのでこれからですが、少しずつ形になってきています。これが続くことで拠点ができ、ブラッシュアップしていく流れになればと考えています」と話してくれました。
次の再開発を控え、商店街としてさらに動けるように
「今後の動きとしては、10年以内に大規模な民間の再開発が入ります。通りの一区画を占めるビルの老朽化にあたっての開発の話が2件持ち上がっているんです。そのビルのオーナーには振興組合の理事もいますから、民間で話を進めていくとしても、できる限りの要望には応えていきたいと考えています」と安達さん。この通りにはアーケードがなく、天候に左右されてきたこともあり、再開発にあたってはそのケアができるような仕掛けも考えてくれているそう。安達さんも一つの起爆剤になるのではと期待を寄せています。
また、街に人を呼ぶ仕掛けとして、人の流れをつくることも考えているそう。
かつて府内城跡地に大分文化会館があった頃は、駅から府内五番街を通って大分文化会館へ行くという人の流れがあったが、閉館してしまったことで目的地を失い、特に休日の通行量が減少。「市役所があるので平日の働く人の流れはあるんですが、休日がなかなか……ですから、府内城跡を文化遺産、観光地としてもっとPRできるように復元させることができたらと考えています」。
そのためにも、振興組合として収益を上げる必要を感じているそう。
「自分たちの収益は、事務所の入り口に設置している宝くじ売り場くらいしかないので、通りとしての収益をもっと上げていく仕組みづくりを考えたい」と今後の展望について話していただきました。
ジャズフェスで盛り上がる府内五番街、そしてJR大分駅へ
安達さんに府内五番街の現状や取り組みについて、とても参考になるお話をうかがったあと、一行はジャズフェスで賑わう通りを見学しました。
全長400mの通りに6箇所の屋外ライブステージが設けられ、ジャズの生演奏を聴きながら食べ歩き、飲み歩きが楽しめるというわけです。
テーブルセットでゆったりオープンカフェ気分を楽しむ人、ライブステージをはしごしてジャズを満喫する人、思い思いの楽しみ方で盛り上がる石畳のストリートは、長いようであっという間!オシャレなセレクトショップやバルなどの佇まいも見応えがありました。
その後、府内五番街を後にして、最後の視察地、JR大分駅へ。2015年に開業した新しい大分駅ビル「JRおおいたシティ」は、商業施設「アミュプラザおおいた」やホテル、温浴施設、屋上ひろば、駐車場から成る地下1階〜地上21階の建物。自由見学とあり、それぞれ思い思いに施設を見学しました。
宮崎県日南市から大分県大分市まで、九州の2商店街をめぐった今回の視察研修。それぞれの理事長をはじめキーマンの方々との交流も叶い、大変実り多い一泊二日となりました。