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令和4年度人材育成事業研修会

開催日時 令和4年12月8日(木)16:00〜17:30
開催場所 松山商工会議所4階第二会議室(オンライン参加も可能) MAP
講師 (株)ナゴノダナバンク代表取締役 市原正人氏、(株)ナゴノダナバンク代表取締役 藤田まや氏、           名古屋市役所経済局 商業・流通部 地域商業課 竹本圭吾氏

松山市商業振興対策事業委員会の主催により、令和4年度人材育成事業研修会を実施。

地域の商業機能の担い手として中核的な役割を果たしてきた商店街は、人口減少社会において、地域コミュニティを支える存在としての役割も期待されています。ナゴヤ商店街オープンの取組では、商店街の機能や空き店舗の活用方法などについて、共に学び実践できる人材の輩出を目指した取組を行なっています。その中心メンバーである3名が、今回は来松してくださいました。

「商店街の活性化のタネをまく『ナゴヤ商店街オープン』の取組とは」をテーマにご講話いただきました。

名古屋市の商店街の実態

今回の講演のテーマは主に2つ。空き店舗対策を行うナゴノダナバンクの円頓寺商店街での取組と、ナゴヤ商店街オープンについて。

まずイントロダクションとして、名古屋市内の商店街の現状をご説明くださいました。

名古屋市内の商店街振興組合数は、平成2年には148だったのが平成30年には89と約40%減。名古屋市内の商店街振興組合員数になると、平成4年には9,054名だったのが平成30年には3,696名と、約60%減少しています。

今回のお話の舞台となる円頓寺商店街においてもその傾向は顕著で、この40年ほどでまちづくりの主役である商店主が40%〜97%も減少しています。

そうした状況の中で、地域が主体をなったまちづくり団体を発足しました。2007年発足の「那古野下町衆」です。

地元中心のまちづくり団体・那古野下町衆

メンバーは、商店街の若手が中心。商店街振興組合の理事と比べ、那古野下町衆のメンバーは20歳ほど下の世代で構成されています。

藤田さん

「商店街振興組合は基本的に商店主しか入れませんが、まちづくりを考えたとき、面で考えたほうがいいということで、那古野下町衆は周りのお店やソトの人々にも声をかけて集めました」

そうして集まったメンバーは、若手商店主や地域住民、企業などのウチの人間に加え、名古屋工業大学の学生やまちづくりコンサルタント、建築家などのソトの人間、元々ソトの人間でしたが、商店街の中に出店した人とさまざま。約20名で構成されています。

市原さん

「ソトの人間は専門的なアドバイスを、ウチの人間は街の風習や人間関係などの情報をソトの人間に伝えるというそれぞれの役割を担っています。ウチの人間は地域との関係が深いので、言いたくてもなかなか言えないことがあります。そこを切り込んでくれるのが、ソトの人間の特権。ですので、切込隊長として必要なことを言う役割のソトの人間をチームキャプテンとしています」

空き店舗対策チーム・ナゴノダナバンク

那古野下町衆の20名で空き店舗、空き家の対策をしていくのでは動きが鈍くなることを懸念し、2009年には那古野下町衆から少数の人間で対策チームを結成。それが「ナゴノダナバンク」です。

その取り組み第一弾として、2009年にいきなり2店舗同時にオープン。このニュースは商店街に衝撃を生んだといいます。

市原さんのお店であるギャラリーショップと、スペインバル。どちらもソトから来た人がオープンした店であり、商店街にこれまでになかった雰囲気、業態ということもあって、「円頓寺商店街が変化している!」というのを感じた瞬間だったそう。

アーケード再生プロジェクト

次に、具体的な3つのプロジェクトについてご説明いただきました。

まず商店街のアーケード再生プロジェクト。

再生前は非常に老朽化が進み、風が吹けば屋根が飛んでいく状況まできていたという円頓寺商店街のアーケード。

市原さん

「当時はかなり商店主も少なくなっていて、どん底くらいのときだったので、費用を捻出することが困難で…。なんとか捻出する方法はないだろうかということで、外部のコンサルや建築家とアーケード対策委員会を発足し、再生に向けて取り組みました。運よく名古屋市や国の補助金も活用し、残り3分の1を商店街で負担して改修することができました。

では、3分の1の商店街の負担金をどうやって捻出したか?着目したのが太陽光発電です。ソーラーパネルの会社をしている知り合いの人間と話して、アーケードの上に180枚のパネルを載せて売電をしました。これにより、組合員への負担金は、想定の10分の1の負担で抑えることができました。売電を行う際の商店主さんへの説明に関しては、藤田さんの力が非常に助かりました」

藤田さん

「アーケード対策委員会だけで進めるのではなく、組合員さんにも説明会を開いて、同意のもとで進める必要があるのですが、その同意を得るのは大変でした。詐欺なのかと疑われることもありましたが、それでも熱心に説明する中で、一人の組合員さんがいいなと言ってくれたんです」

市原さん

「山が動きましたね。ウチの人間である藤田さんだからこそできたことです。今では、皆さん売電の数字を楽しそうに見てくださっています」

イベント再生プロジェクト

これまで、円頓寺商店街の年間イベントは七夕イベントのみでしたが、もう一つ作ろうということで始まったのが「パリ祭」。

きっかけは、空き店舗を活用して出店したスペインバルの店主が、「パリ好きだからパリ祭やろう」と那古野下町衆の会議で提案したことからスタートしたそう。

市原さん

「イベントはソトから来た人間だけでもできないし、ウチの人間だけでは発想が乏しくなってしまう。パリ祭は、ウチとソトがうまく取り組み、生まれて達成できた例だと思います。商店街の人は年に一度の七夕祭りが絶対だという気持ちを持っていたので、その絶対を上回りたかったんです。上回ることで、商店街のメンバーとして認められるんじゃないかと」

パリ祭は、1回目から補助金に頼らず開催。出店料が費用の要でしたが、1回目が大成功に終わったことで「円頓寺商店街のイベントにはお客さんが集まる」という噂が広まり、外部からも「お金を払ってでも円頓寺でイベントをやりたい」という話が続々と舞い込んでいるそう。

空き店舗再生プロジェクト

2009年にナゴノダナバンクが発足したことで、取り組みが活性化した空き店舗再生プロジェクト。発足から10年で約40店舗誘致しています。

(例)日本料理店を活用した歌舞伎カフェ

廃業した日本料理店を、歌舞伎が見られるカフェに再生。

かつては劇場や映画館がたくさんあったという円頓寺商店街で、時間消費ができる場所を望む声にも応える形でのアイデア。

藤田さん

「歌舞伎の上演前に、役者たちが今からやるよと商店街を練り歩いてくれたり、店の前で演技をチョイ見せしてくれるんです。建物の中だけでなく、街に滲み出したような賑わいが生まれているので、とてもいい施設、業態だなと思っています」

市原さん

「事業者と地域・商店街、そして私たちのようなまちコーディネーターが所有者をうまくマッチングさせながら取り組んでいく。その結果、少しずつ店が増え、再生が進んでいます」

藤田さん

「街もいい時と悪い時、波があると思いますが、円頓寺商店街も落ち込んでいたところから、プロジェクトを経てちょっとずつよくなってきました。空き家バンクの取り組みも、最初は所有者の人になかなか信用してもらえなかったんです。特にソトの人が一生懸命やっていることに対して、何か魂胆があるんじゃないかと思われていたんですね。ですが、ずっとやっていくうちにそうじゃないと気づいてもらえて…。気づいたら私も物件を買っていました(笑)」

竹本さん

「商店街と新規事業者だけではうまくいかない部分はあると思います。行政の施策ではアドバイザーやコンサルティングを派遣することはありますが、商店街に片足突っ込んでいるぐらいの人がいないと、厳しいのかなというのがある…。なので、まちコーディネーターという存在をつくることがまちづくりの近道かなと感じています」

商店街オープン

実際の空き店舗を活用し、商店街と新規事業者、まちコーディネーターが一緒につくっていく過程でウチとソトの関係性を築くことができたらという思いから始まったのが「商店街オープン」という取組です。

「商店街オープン」の名称について

1.商店街内の空き店舗を魅力あるかたちで開いていくこと

2.商店街とソトからの人たちがつながる開かれた場所になること

3.テニスやゴルフの大会のように誰でも参加でき、知識や経験を出し合いスポーツのように切磋琢磨して、事業プラン・商店街・まちのことを考えていくこと

現在、商店街オープンを実施しているのは、名古屋市の9エリア。中心部の周辺に位置する商店街にて行われています。

商店街オープンは5年目の取組となりますが、これまでにゲストハウスが運営する「喫茶モーニング」や、日替わりシェフの食堂「かさでらのまち食堂」、夜の街に子どもたちの居場所づくりを意図した「シバテーブル」、大人も楽しめる「みんなで駄菓子屋」などがオープンしています。

商店街オープンのプロセス

商店街オープンは、外部人材に参加者を募集するところからスタート。集まった10人弱のメンバーでワークショップを行い、空き店舗をどう使うか取り組んでいきます。

  • プロセス

リサーチ・ステージ

まちの特徴や課題を知り、エリア活性の起点になるようなアイデアの種を考える。

(まちの分析・キャプテンによるレクチャー・ブレストなど)

プランニング・ステージ

アイデアを実現可能性のあるプランに練り上げる。

(先進事例調べ・運営方法やレイアウト検討・実際に運営する事業者探しなど)

プレゼンテーション

事業プランを発表する。プランの一部を実験してみる。

竹本さん

「リサーチの段階では、ありきたりなものにならないように自由に発想することを大切にしています。ただ、チームができて外部の人が根付くにはお店ができてこそ。本当に商売として成り立たせようと思うと、自由すぎたり、やりたい放題になったりではいけません。

実際に事業プランを考えつつ事業者探しをするあたりが行き詰まるところではありますが、そこはメンバーのみなさんで乗り越えてもらうしかないんですよね。最初は私たちが主導しますが、どこかで自発的に動いてもらわないといけない…主導権を渡すタイミングは難しいですね」

西山商店街「ニシヤマナガヤ」の事例

最後に、商店街オープンを経てまちがどう変わっていったか。西山商店街の事例をお話いただきました。

西山商店街は、名古屋市の東に位置する商店街。全長100mほどの小さな商店街ですが、周辺環境には恵まれた場所で住みやすい街として知られ、ファミリー層も多いエリアです。

商店街オープンを開始したのは2018年から。

人口は増えているエリアなのに、商店街には人が来ないという状況を打破するため、商店街オープンを開始。ニシヤマナガヤが誕生しました。

キーマンは、建築士の植村康平さん。管理人としてニシヤマナガヤを運営されています。ニシヤマナガヤは、ここに暮らす人や訪れた人がくつろげる「街のリビング」のような場所。

建物は2階建てで、1階は75平米の敷地に、飲食ができる共有のスペースを持ちながら複数の店舗が入居しています。ラインナップは、植村さんの奥様が営む焼き菓子店やコーヒー店、花屋など。

2階には植村さんの建築設計事務所やレンタルスペース、ギャラリースペースがあります。

竹本さん

「もともと西山商店街にもレンタルスペースはありましたが、ただ借りるだけの場所だったために普段は人がいなくて、ほぼ使われていなかったんです。でもニシヤマナガヤのように、人が集まる場所につくることで地域の人が使うようになり、いろんな活動が生まれました。大学との連携など、外の人との連携が生まれたんです」

西山商店街に起きた変化は?

ニシヤマナガヤができたことで、地域住民の関わりしろができ、空き店舗の所有者にもいい影響を与えたといいます。

竹本さん

「商店街の所有者はお金に困っていない人が多いので貸さなくても…というのが多かったんですが、ニシヤマナガヤといういい例ができたことで、心変わりをして貸してくれたという話もありました。新しい人が入ることで、少しずつ世代交代が起きているなと感じます。

商店街再生というのは、元の姿に戻すことが正解でもないですから、面的に広がらなくても、関係性が深まっていくのではないかと、この取り組みを通して勉強になりました」

商店街オープンを始めた2018年の時点では、西山商店街には半分ぐらい空き店舗がありましたが、ニシヤマナガヤの動きを見て、「リーディングマグ」という洋書をメインに扱う書店&焼き菓子店や、司書の資格を持つ近所の主婦の方が開いた子どもたちの居場所「暮らせる図書館」などのお店がオープンしました。

「最後に、大事な理事長の存在を」とご紹介してくださったのが、西山商店街振興組合の種田千早理事長。

竹本さん

「ずっと踏ん張って来られた方で、西山商店街の再生をやりたいと言ってくださっていました。でも、いろいろやってきたからこそ最初は否定的な意見が多かったんですが、ニシヤマナガヤができたことで、外からの活動を肯定的に迎えてくれるようになりました。

そしてついには、いい意味で『私の時代は終わったわ。次の世代にバトンタッチする時が来た』と言ってくれて、すごくいい変化が起きたなと感じました」

そんな種田さんですが、現在は自身の駄菓子屋のリニューアルプロジェクトが進行中!まだまだ現役です。

ソトとウチの関係づくりが商店街再生の鍵

ソトの人を呼び込むことは、ウチの人に敬意を持って商店街を続けていくこと。

まとめとして、このメッセージをくださった御三方。

いろんな場所、地域、エリアで面白い人が育っていけば…という思いから、次のステップとしてまちコーディネーター養成講座を実施しているという現在進行形の話で締め括っていただきました。

続く質疑応答では、パリ祭のこと、空き家バンクのことなど、さまざまな質問が飛び出しました。

魅力的な取り組みの数々に、「視察させてほしい」という参加者も。「ぜひ円頓寺商店街へ遊びに来てください!ご案内します」と応えてくださいました!

実際に講師の方にお越しいただくのは久々ということもあり、リアルなやりとりに盛り上がった今回の人材育成研修会。大変有意義な時間となったのではないでしょうか。

講師プロフィール

市原正人/一級建築士

(株)ナゴノダナバンク代表取締役、(有)デロ代表(市原建築設計事務所)、(一社)ボンド代表

20年以上前より円頓寺商店街を中心に那古野地区のまちづくりに関わり、2009年空き店舗対策を行うナゴノダナバンクを発足。現在は、他地域のまちづくりも行い、那古野エリアとの地域間連携に取り組む。また文化財の管理及び民間活用、地域産業・食の振興にも取り組む。

藤田まや/宅地建物取引士

(株)ナゴノダナバンク代表取締役、円頓寺商店街「化粧品のフジタ」

大正2年創業の化粧品屋に生まれ、実家と地元が無くなってほしくないという思いからまちづくりに関わる。現在も実家と地元での取り組みを大切にしながら、他地域のまちづくり、イベント企画運営も行い、愛知県商店街活性化プラン策定委員も務める。

竹本圭吾/名古屋市役所 経済局商業・流通部 地域商業課

2010年名古屋市役所へ入庁。岩手県陸前高田市役所及び中小企業庁商業課へ出向し、東日本大震災からの中心市街地の復興支援や全国の商店街の活性化支援を経験。2017年に名古屋市へ戻り、商店街担当としてナゴヤ商店街オープンの企画・運営に携わる。

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