1日目:八戸市商店街の活性化への取り組み
視察初日は、青森県八戸市の中心市街地を訪問し、八戸商店街との意見交換会が行われました。八戸市商工労働まちづくり部の担当者より、市の中心市街地活性化策について説明を受けました。
八戸市の概要と中心市街地の現状
八戸市は青森県南東部に位置し、人口は約21万5,000人(令和5年3月現在)を誇る県内第二の都市です。中心市街地は、かつて「市民の広場」として栄えた三日町商店街を中心に、六日町商店街、十三日町商店街などが集まるエリアです。
平成2年にアーケードを撤去し、新たな商店街づくりが進められましたが、その後、長崎屋やイトーヨーカドーの閉店、市民病院の移転などにより、商業機能の低下が課題となりました。この状況を受け、八戸市は商業だけでなく、文化や交流の拠点としての市街地整備を進めています。
八戸市商店街振興の取り組み
文化・交流施設の整備
・八戸ポータルミュージアム「はっち」(平成23年開館):市民の交流拠点。
・八戸まちなか広場「マチニワ」(平成30年開設):イベントスペースとして活用。
・八戸ブックセンター(平成28年開館):全国的にも珍しい市が運営する書店で、「本のまち八戸」の拠点。
・八戸市美術館(令和3年開館):文化芸術の発信拠点。
・長根屋内スケート場「YSアリーナ八戸」(令和元年開館):スポーツを通じたまちづくり。
再開発の推進
こうした公共施設整備の波及効果により、空きビルや既存ビルが新たな機能に生まれ変わりました。
・商業施設・マンション複合ビル「DEVELD八日町」の開業。
・公共施設(八戸ブックセンター)とオフィス・商業施設が一体化した「ガーデンテラス」の開業。
・IT・テレマーケティング関連企業の進出促進。
人の活動と交流が生まれ、未来を創る人材が生まれるまちへ
そして第4期中心市街地活性化基本計画(令和6年3月26日認定)では、「人の活動と交流が生まれるまち 未来を創る人材が生まれるまち〜次世代につなぐ中心市街地」を目指す中心市街地の都市像として様々な取り組みを展開しています。
●中心街ストリートデザイン事業(街路空間づくり:空間再配分を通じた「人のための空間づくり」と「車との共存」を目指す)
●まちなかマーケットラボ
●ナイトマーケット
●フリーWi-Fi・AIカメラ(三日町・十三日町・六日町・十六日町の屋外全エリアにおいてフリーWi-Fiの運用を開始)
●はちまちLINE(八戸中心街の情報が詰まったLINE)
●ヨルニワ(中心街周遊イベント)
●デジタルスタンプラリー
●十三日町・十六日町地区優良建築物等整備事業(商業ビルと立体駐車場を、分譲マンション、商業施設、立体駐車場へ)
新たな空き店舗対策
八戸市中心市街地活性化協議会が実施主体となり、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)のサポート事業のパッケージ型支援を活用。プロジェクトチームの派遣を受けながら八戸市、八戸商工会議所、まちづくり八戸が連携して、新たな空き店舗対策を検討、実施していくとともに、エリアマネジメントの仕組みの導入を踏まえたソフト事業の展開や十三日町街区のエリアビジョンの策定に取り組んでいます。
地域ぐるみの賑わい創出へ「中心街委員会事業」
八戸商工会議所で設置した中心街委員会は、商店街関係者のみならず行政関係課、大学、青年会議所など様々なメンバーで構成される団体です。同意委員会では賑わい創出イベントの企画・実施などを行っています。
八戸高等学校による謎解き、八戸東高等学校による書道パフォーマンスなど、中心街近郊の高校生が企画段階から携わってホコテンイベントなども開催しました。
2日目:盛岡市の商店街連合会との意見交換&MORIO Payの活用事例
2日目は、岩手県盛岡市を訪問し、盛岡商店街連合会との意見交換が行われました。商店街連合会の事務局は商工会議所。現在の会員数は28です。
盛岡市の概要
盛岡市は南部盛岡藩の城下町として400年以上の歴史を持ち、岩手県の県都として発展してきました。特に商業・サービス業が中心市街地に集中しており、2023年にはアメリカのニューヨーク・タイムズ紙が「2023年に行くべき52カ所」の2位に選出するなど、国際的な注目も高まっています。
中心市街地の商店街
●大通商店街:JR盛岡駅近くにある東西600mのアーケード街。
●肴町商店街:江戸時代から続く歴史ある商店街。2024年には再開発事業で新たな商業施設が完成予定。
●盛岡バスセンター:2022年にリニューアルオープンし、バスセンター機能だけでなく、マルシェ、飲食店、ホテル、サウナ&スパなどが入る複合施設として新たな拠点となっています。
市の補助金を活用し様々な取り組みを支援
盛岡市商店街連合会では、盛岡市の補助金を活用し、以下の事業を行っています。
●小規模イベントの支援(助成対象経費が10万円未満の小規模イベントに対して助成を行う事業)
●商店街街路灯維持管理事業(商店街団体が設置・管理している街路灯に係る電気料金に対して助成。助成率27/100・市補助金)
●商店街イベント事業(集客力の向上、魅力ある商店街づくり等を目的として行った催事に対して助成)
●商店街活性化支援事業
・市民等の団体がストリートステージ事業:商店街の賑わいづくりた市民生活の向上を目的として実施した催事に対して助成
・フラワーコミュニケーション事業:商店街団体が地域住民等と連携して行った花壇の設置及び維持管理費用等に対して助成など
盛岡商店街連合会のキャッシュレス決済と地域カードシステムの歩み
2012年〜:電子マネー・プリペイド決済の議論がスタート
2012年以降、盛岡商店街連合会では、共通駐車サービス券システムについて議論を進めていました。特に、精算機対応の駐車場が多いことから、電子マネーやプリペイドタイプの決済方式が検討されるようになり、同時に地域ポータルサイトの構築についても議論が進められました。
2014年:地域カードシステムの具体化
ポータルサイトと連携した新しい地域カードシステムの導入を検討し、具体的な計画を進めました。これに伴い、「商店街まちづくり事業補助金」(商店街まちづくり事業事務局)および「地域商業自立促進事業補助金」(東北経済産業局)を申請し、採択を受けました。
また、盛岡市が5%を出資し、商店街関係者の出資も加わる形で盛岡Value City株式会社を設立。地域情報を集約したポータルサイトと連携し、新たな地域カードシステムを構築しました。
2015年3月:MORIO-Jポイントサービス開始
2015年3月より、「MORIO-Jポイントサービス」の運用を開始。肴町商店街を中心に、約20年間使用されていた旧ポイントカード(JOYカード)のポイントも、新システムへ移行しました。
2024年7月現在の実績
・MORIO-Jカード加盟店数:121店舗
・MORIO-Jカード発行枚数:約15万枚
・月間アクティベート枚数:約8,000枚
商店街のDX化:MORIO Payのスタート
2016年頃から日本国内でもQR決済サービスが登場し、2018年のPayPayの普及を契機に、全国でキャッシュレス決済が急速に広がりました。その影響で、多くのポイントサービスが「支払い方法と一体型」の形へと移行する流れが加速。
QR決済は、店舗側の設備投資が不要というメリットもあるため、MORIO Payの導入に向けた検討が本格化しました。そして、日専連パートナーズとの連携事業として設計を進めることが決定。
この事業では、日専連パートナーズが電子マネーの発行を担当、盛岡Value Cityが電子マネーに連動する「MORIO-Jポイント」の発行を担当し、2社の協力のもと、MORIO Payの導入を推進していくこととなりました。
2024年9月時点で加盟店数1,043店、登録ユーザー数41,005人。盛岡最大の屋外飲食イベント「もりおかSUMMERガーデン」でも導入し、全体売上の約20%がMORIO Pay決済となるなど、地域経済に大きく貢献しました。
女川町の道の駅視察・被災地訪問
その後、一行は宮城県女川町へ移動し、道の駅「おながわ」や震災遺構を視察しました。
女川町は東日本大震災で甚大な被害を受けましたが、復興を遂げ、新たな観光・商業拠点として注目を集めています。
3日目:仙台市中心市街地の視察
最終日は仙台市を訪れ、仙台中央商店街や朝市商店街、仙台駅周辺を視察しました。
仙台は東北最大の都市であり、大規模商業施設と昔ながらの商店街が共存する街です。視察を通じて、中心市街地の再開発や観光誘客施策などについて学びました。
まとめ:東北の特色ある取り組みが商業振興のヒントに
3日間の視察を通じて、八戸、盛岡、女川、仙台の商業振興策や地域活性化の事例を学ぶことができました。
特に、
・八戸市の公共施設を活用したまちづくり
・盛岡市のMORIO Payを活用した地域経済活性化
・女川町の震災からの復興と観光振興
は、それぞれ特徴的な取り組みであり、松山市の商業振興にとっても参考となる事例でした。