柏銀座通り商店会〜歴史・伝統の壁
まず、一行が向かったのは千葉県柏市。
首都圏から30キロ圏内に位置する商業都市です。
「柏二番街商店会・柏銀座通り商店会視察研修」では、最初に柏銀座通り商店会の濱名登喜彦会長より、柏銀座通り商店会の概要と、賑わいの起爆剤ともなった名物イベント「空市」誕生の経緯をご説明いただきました。
柏神社の脇から東へ延びる、直線距離約800mの銀座通り商店会。
柏市内で一番古くから存在する商店会であり、設立から65年目を迎える歴史・伝統のある通りです。
設立当時は120店舗ほどのさまざまな業種の店が会員として軒を連ねていましたが、現在は93店舗。物販の多かった当時と明らかに違うのは、飲食店の割合が増えたこと。飲食店7割、美容室2割、物販やその他で1割の割合となっています。
設立当初は歴史・伝統のある商店会ということから会員となる店舗も多かったそうですが、その流れが続いたことで明るみになった問題点の一つが「歴史を重んじるがあまり、役員の世代交代が進まなかったこと」。「20年間役員の改選がなかったことから役員と会員の情報の共有がなく、風通しの悪い商店会になっていました」と濱名会長。
さらに追い打ちをかけるように後継者不足による廃業が重なり、夜は飲食店で賑わうが、昼間はシャッター通りという状況に陥ってしまったのです。
若い力に着目!青年部の立ち上げ
この厳しい状況を打破すべく、柏銀座通り商店会は若い力に目を向けました。
若手飲食店経営者が増えてきたことを受けて、「商店会青年部」を立ち上げることにしたのです。
「当時、理事を務めていた私は会長から青年部の立ち上げを命じられ、早速会員を集めるために50店舗ほどに説明会の案内を配布しましたが、当日集まったのはわずか3名ほど。銀座通りに出店していても、みなさん全く商店会に興味がなく、活動なんかできるわけないという雰囲気がひしひしと…」と当時を振り返ります。
そこで、店の営業後に飲み会をしながらだったり、ランチがてらだったりと、無理なく集まれるような工夫をしていくうちに10人、15人と参加者が増えてきたそう。
「とにかく本業ありき。『遅刻しても早退してもいいから、5分でも10分でも会議に顔を出そう』ということで回数を重ねていくうちに参加者も増え、意見や知恵が出るようになり、30人ぐらいの会議ができるようになったんです」
こうして商店会青年部の活動が本格的に始まりました。
「美食の街」を活かした空市の誕生
廃業店増加や日中の集客減という問題を解決するために、青年部として取り組んだこと。
まず、廃業店の増加による空き店舗対策として、空き店舗の賃貸活用をオーナーに提案。青年部が仲介に入り、オーナーを大家さんとして活用してもらうという取り組みを始めました。
そして、日中の集客を増やすための取り組みとして、「自慢の料理を天気のいい空の下で食べてもらおう」という企画が持ち上がりました。
飲食店の割合が多い柏銀座通り商店会ならではの特色を活かせるイベントです。
毎回テーマを決めて、ワンコイン(500円)の統一料金で参加店舗にメニューを作ってもらう。
「ワンコインでいいものを少しずつ、食べ歩きできるようにすることをコンセプトとしました」と振り返ります。
また、PR作戦として、次のようなことに取り組みました。
・地元の小学校に銀座通り商店会のイメージを絵にしてもらうようお願いし、児童の描いた絵をフラッグにして当日商店街に飾った。
・普段の営業にもつなげるために、料理人の等身大パネルを作り、店の前に飾って作り手をPR。このアイデアは、後々お店の営業にも役立ったとの声も多かったそう!
このような取り組みが功を奏し、通りを歩行者天国として開催した第一回の「空市」は、まっすぐ歩けないほどの多くの来場者で賑わったそう。
「みんなが真剣に取り組んだら、これぐらいの活動ができるんだという手応えをつかむことができました」と濱名さんも充実感をにじませます。
青年部・空市の誕生による効果
「空市」の反響を受けて、古くからここで商売を営む先輩会員からも「若い世代に任せよう」という声が挙がり、役員の世代交代がスムーズに進行。結果、60代後半から40代後半へ、役員の若返りが実現しました。
また、「空市」がさまざまなメディアに取り上げられたことで各店舗の知名度も上がり、「予約の取れない店」も出てくるほどに。
そして、平成25年に地域商店活性化事業公募に採択され、本格的に商店街活性化への取り組みを始めて5年目となる平成29年、中小企業庁より「はばたく商店街30選」に選ばれました。
「食」をキーワードとした新たな回遊イベントを企画し、若手飲食店オーナーたちが成果をあげたことが評価されての選出でした。
「この賞をいただいたことで、青年部の士気はさらに高まりました。さらなる活性化に向け、今もみんなで思いを巡らせているところです」と濱名さん。
個性豊かなグルメと若い力により賑わいを取り戻した商店街は、さらなる発展を目指しています。
時代に合わせた情報発信を
次に、柏銀座通り商店会の理事であり、青年部で「空市」の指揮をとる酒井健児さんに、「空市」の現状と情報発信のための取り組みについてご説明いただきました。
春と秋、年に2回、歩行者天国で開催されている「空市」。
13回を数える名物企画に成長しましたが、「回数を重ねるなかで、集客の問題も徐々に出てきています」と酒井さん。
柏銀座通り商店会の会員は現在93店舗で、うち54店舗が青年部会員。そして「空市」に出店しているのは平均して20店舗弱。
柏銀座通りは7割程度が飲食店ですから、その全てが出店するともっと多いはずなのですが、「会員のなかで、出店する店としない店の温度差が生じているのが現状」だといいます。
そこで、情報発信ツールとして、「空市」の公式ウェブサイトの制作に取り組み始めました。
「一般のお客さん向けに情報発信をして、来場してもらうという目的が第一ですが、出店する店舗さんにメリットになることをしよういう意図もありました」
さらに、Facebookや公式YouTubeチャンネル、公式LINE@など、さまざまなツールを用いて「空市」を告知。
中でも参加店に好評を得ているのが公式YouTubeチャンネルで配信している店舗のPR動画です。
「動画は、出店した方への特典としてアピールしました。制作した動画はプレゼントして、お店で自由に使ってもらってもOKということにしたんです。私が作るので業者には及びませんが、無料ということで結構満足していただけています」
スマートフォンの普及に合わせて、紙媒体だけでなくSNSも巧みに活用した情報発信に取り組むことで、市内だけでなく県外からの来場も増えたそうです。
次世代へ向けての取り組み
青年部が中心となり、新たな発想を用いた商店街づくりを進めてきた柏銀座商店会。
今、一番のテーマとして取り上げているのは、会費に依存しない商店会運営、そして各店舗及び商店会全体の活性化だといいます。
「実際、うちの商店会の会費は安い方だと思うんですが、商店街が盛り上がるには、会員が盛り上がってこそ!だから、私たちは会員に負担をかけない、会費に依存しない商店会運営を今後も続けて行きたいと考えています」。
また「空市」に続く新たな企画をと、空き地を活用して商店会全体を盛り上げて行こうという動きも出ています。
そしていよいよあと一年に迫った2020年に向けては、インバウンド(訪日外国人)対応も課題となります。
「柏市はアジア系外国人の方々の移住も増えているし、旅行者も年々増えているので、インバウンド需要の取り組みは急務。会員同士の勉強会・意見交換会などでうまく行っている店舗のエッセンスをみんなで共有し、会員全体で切磋琢磨していけるような環境を作って行きたい」と熱く語ってくださいました。
柏の街が元気な訳は?
続いてご登場いただきました柏二番街商店会の石戸新一郎理事長には、「持続可能な柏のまちづくり」をテーマにお話しいただきました。
「元気な街には訳があります」と話す石戸さん。
柏の街が元気な訳は、以下の3つがポイントとなるそう。
1.強靭な交通インフラ
①首都30キロ圏に位置する優位な立地(ドーナツ化による人口増)
②JR常磐線とつくばエクスプレスが並行し、東武アーバンパークラインが交差する
③国道6号と常磐道が並行し、国道16号が交差する
電車で首都圏から30分、特急なら20分、幹線道路によるアクセスも便利という恵まれた立地。
「柏の中心市街地から20分ほど離れるとのどかな田舎が広がるという、コンパクトシティであることも活性化の一因と言えます」
2.柏駅東口駅前再開発事業の完成により商業都市としてのイメージが確立(昭和48年)
①東口再開発により、日本で最初のペディストリアンデッキ(通称:ダブルデッキ)が完成
②東口に柏そごう、西口に柏高島屋が開店。東口の丸井柏店が増床
この時期、大型店の進出により駅前の物販の店は衰退してしまいましたが、大型店ができたことで大きなマーケットが生まれるという効果が。物販の店も業種転換を図ることで生き延びることができたといいます。
「今は大型店が進出すると、自分たちのマーケットをさらわれてしまいダメになってしまうことも多いですが、柏市は昭和48年の時点ですでに大型店の洗礼を受けていたのです」と話されます。
3.柏駅前周辺商業のイメージアップ戦略の実践
①柏市、柏商工会議所によって策定された柏市商業振興ビジョンの事業化(平成10年)
②柏駅周辺イメージアップ推進協議会を設立、事務局は柏市商工課におく。
「柏駅前は江戸時代は幕府の御用牧地でした。それが明治29年に常磐線が引かれたことを皮切りに徐々に街になっていったので、街としての歴史はまだ60年ほど。そんな柏の街にどんなイメージを形成するかが、まちづくりにおいて非常に重要なことでした」
そこでイメージアップ推進協議会を立ち上げ、マーケティングコンサルタントの西川りゅうじん氏プロデュースによるイベントを開催。
ストリートダンスコンテストや商店街で結婚式、持ち運びできるモバイルフードなど、さまざまな企画を展開しました。
持続的まちづくりに必要な三つの仕組みづくり
柏市中心市街地では、まちづくりを組織化し、官民連携による持続可能なまちづくりを目指しています。
その仕組みは主に三つ。
1.支援組織体制の仕組みづくり
・柏駅周辺イメージアップ推進協議会
・NPO法人柏市インフォメーション協会
・柏駅周辺防犯推進協会
・(協)柏駅東口中央商店街連合
・柏駅西口5商店会連合
2.持続的な運営資金捻出のための仕組みづくり
・(一財)柏市まちづくり公社→駅前広告
・かしわインフォメーションセンター→事業収入
・柏アーバンデザインセンター→事業収入(地元企業、地権者、商店会、会議所、柏市)
3.人的ネットワークと後継者育成の仕組みづくり
・ストリートブレイカーズ
・日本ガーディアンエンジェルス柏支部
・JOBANアートライン柏実行委員会
・ユルベルトKASHIWAX実行委員会
・ウイスキーフォーラム実行委員会
この3つの大きなテーマを掲げ、平成10年から約20年かけて取り組んできたことを踏まえて、最終的な形となったのがイメージアップ推進協議会です。
アーバンデザインセンターは、都市づくり、まちづくりのミュージアム
イメージアップ推進協議会の開催を経て、エリアマネジメント協議会へとつながり、アーバンデザインセンターの設立へ。
柏市では、2004年頃から郊外型の大型店の進出が目立つようになりました。「普通なら空洞化は免れない状況ですが、柏市はインフラがしっかりしているので、そこまでの痛手を被ることはありませんでしたが、マーケットはかなり狭まりました。以前のように、百貨店がマーケットを広げてくれる時代ではないことを痛感しました」と石戸さん。
これまではイベントなどを開催することでイメージアップを図ることに取り組んできましたが、街の骨格を根本から変えないといけないことに気づき、イメージアップ戦略事業から、都市デザインを重視したまちづくり戦略にシフトすることとなります。
●新たなまちづくりへの主な取り組み
①柏駅東口ペディストリアンデッキの改修(通称:Wデッキ 平成24年:柏市)
②駅前ウッドデッキ広場の完成(平成24年 地域商店街活性化法の認定:柏駅東口中央商店街連合)
③デジタルサイネージによる情報発信事業とアーケードの改修(平成25年:柏二番街商店会)
④柏一丁目地区まちづくり協議会設立(平成21年:民間による東口一丁目地区の開発計画の推進)
⑤柏アーバンデザインセンター〔UDC2〕の設立(平成27年:柏エリアマネジメント協議会)
⑥一般社団法人 柏アーバンデザインセンターの設立(平成28年11月:柏エリマネ協議会を法人化)
⑦柏駅周辺グランドデザインを策定(平成30年7月:UDC2・柏市・柏商工会議所)
新たなる柏イメージの構築に向けて
平成28年には柏の中心市街地にあった柏そごうが閉店。
それにより街の動線がガラリと変わってきたことを感じているという石戸さん。
「中心市街地のなかでも、人通りが一箇所に集中するという現象が起こるようになったんです。柏のようにインフラがしっかりしていても、人通りに偏りが出ることを実感。アーバンデザインセンターにシフトして取り組みを行うにつれ、まちづくりに対する考え方もかなり変わりました」
そんな柏市では、次の10年を視野に入れ、新たな取り組みを始めています。
①新しいカタチの商店会「ウラカシ百年会」の設立
平成29年設立。柏で商売をしている人や、柏に興味関心がある人を中心に構成された商店会。現在の会員数は30店舗ほど。
会員の平均年齢は30代後半と若い世代が中心。
柏二番街商店会を表、ウラカシを裏とした表裏一体のコラボイベントも企画しています。
「ウラカシは若い世代が頑張っています。彼らのいいところは、自分たちの商売ができればOK、賑わいはあったらいいなぁくらいの、いい意味でのユルさ。だからこそ逆に楽しんで面白いことができるのだろうと思います」と石戸さんも若い力に期待を寄せています。
②高校演劇をバックアップ「かしわンダーパレード」の開催
次の世代をとらえるため、高校演劇のバックアップにも取り組んでいます。
賑わいの多い場所にステージを組み、高校生の演劇をサポート。昨年は11校、214名の参加者があり、学生の親も応援に駆けつけるため、大変な賑わいだったといいます。
「毎年やってほしいという声も多いので、今後ますます盛り上げていけたら…。やはり、また違ったところから柏のイメージをつくっていくことは大切だと実感しました」
研修後は、石戸さんとともにインフォメーションセンターを立ち上げた「まちとひと感動のデザイン研究所」代表の藤田とし子さん、柏二番街商店会の理事・まちづくりアドバイザーを務める佐藤和裕さんとともに柏二番街商店会、柏銀座通り商店会、ウラカシ百年会を視察。興味深いお話を聞きながら、みなさんじっくりと見学されていました。
再開発の進む浦和駅東口駅前地区へ
千葉県柏市を後にした一行は、埼玉県へ突入。
市街地再開発事業により進化した浦和駅東口駅前地区を見学しました。
駅前交通広場、市民広場、駐車場、施設建築物の整備などが行われ、市民の憩いと交流、商業・文化振興を促進する場所へと生まれ変わった浦和駅東口駅前。
ランドマークである駅ビルはグルメ・ファッション・レジャーが充実した商業施設としての役割だけでなく、8階から10階には公共施設「Comunale(コムナーレ)」を整備。
中央図書館や市民活動サポートセンター、コミュニティセンターなどがあり、市民の支援センターとしての機能が充実しています。